湯船に浸かっている時に、
なんとなく「ホロッホー」と鳩の鳴き声を真似してみれば自分が思ったよりもとても素晴らしい「ホロッホー」ができた。
こんなにも「ホロッホー」が上手だったとは!!
雷に打たれたような感動が走り、身体の底から万能感が湧き上がってくる。
想像してほしい。
初めてボーリングをして一投目でストライクを取れた。
初めての野球でいきなりホームランを打った。
自分がそのジャンルの天才だときっと思うに違いない。
人生で初めての「ホロッホー」がホームラン級の「ホロッホー」だったのである。
もっと精度を上げたい。
「ホロッホー」
「ホロッホー」
口の膨らみ、息の吐き具合、「ホロッホー」がより素晴らしい「ホロッホー」になるように繰り返していく。
ただ「ホロッホー」を極めたかった。
祖父には「何でもいいから自分はこれだと思うものを極めなさい」と教えられた。
それが「ホロッホー」だとは。
気が付くのに時間がかかってしまった。
いや仕方ない、30年間以上生きてきて、それまで鳩のモノマネを全力でする機会などなかった。
自分を知ることが一番難しいのだ。
この世界が国語や数学の点数ではなくて、「ホロッホー」の点数でいい大学に入って、いい企業に入れる世界だったなら、
もっと自分の「ホロッホー」の素晴しさに早く気付いて、世界平和に役に立てたかもしれない。
鳩は平和の象徴である。
なら「ホロッホー」は平和の福音である。
はやく自らの「ホロッホー」の素晴らしさに気が付くことができればと後悔するが今からでも遅くはない。
カーネルサンダースは65歳で無一文になって、そこからケンタッキーフライドチキンを創業していく。
挑戦に遅すぎることはないのだ。そう「ホロッホー」にも。
僕はカーネルサンダースの半分も生きていない。
「ホロッホー」
「ホロッホー」
「ホロッホー」に集中しすぎて湯船でのぼせかける。
風呂から上がって体をふき髪をドライヤーで乾かす。
ドライヤーの風を感じながらの「ホロッホー」も格別だ。
まるで公園で風に揺れる木々に囲まれた鳩の気持ちになってくる。
よし、今日はここまでにしよう。
また、明日も「ホロッホー」できる。
「ホロッホー」をやりすぎても、自分の「ホロッホー」を見失ってはいけない。
いい仕事をした後のビールは美味い。
いい「ホロッホー」をした後のビールもきっと美味いはずだ。
キッチンでビールを手に取り、リビングへと向かう。
「りょうくん、ずっと『ホロッホー』『ホロッホー』うるさかったんだけど、、、」
全力で「ホロッホー」することに夢中で大きすぎる声量に気付かなかった。
僕の「ホロッホー」はお風呂場のドアを超え、廊下を進み、妻のいるリビングまで聞こえていた。
「りょうくん、バカなことやってないで早く寝なよ」
妻の言葉をヒラリマントでかわして、勢いよくビールを流し込む。
妻はまだ分かっていない。
僕の「ホロッホー」の素晴らしさを。
そして「ホロッホー」の後のビールの美味さを。
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